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ある野良魔導士の書斎

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結局は (ヒスイ、落胆を隠せない)


冒険者の宿【水繰の剣亭】:65
ヒスイ、依頼完遂できず……

―クリスマス当日
「……失敗したのか」
「ええ。……手紙、届けることができませんでした」
例の秘密基地。レモネドとヒスイは市場で買ったサンドイッチと熱いミルクで昼食を取りながら、昨日の話をしていた。
「一年前にお前が捕まえた悪い奴が、昨日探していた相手だったんだな」
「うん。しかも依頼人のお姉さんは二週間前に病気で死んでいた。
 ……なんだか悲しい気持ちになりました。彼女の手紙、その人に渡せなかったのですから」
ヒスイはそういい、ミルクを一口のみ、ため息をつく。
「結婚詐欺かぁ。すっごく悪い男だな!俺はそんな風にはならないぞ!」
「私もなってほしくありません。
 ああ、そうそう。悪いとは思っていたのですが…彼女の手紙を読んだのです」
「……どんな、内容だったんだ?」
レモネドがサンドイッチを口にしながら問う。ヒスイはどこかぼんやりとした顔で
「彼女、シトラスさんっていうんですけど
……その人が詐欺師である事に気づいていたみたいですよ」
そういい、内容にあった一文を思い出す。

―あなたにクリスマスの夜歌ってもらったセレネイドこそあなたの本心だと信じています

「……? じゃあ、なんで手紙を書いたんだろ。
 やっぱり怒っていたのだな?」
うんうん、と頷くレモネドにヒスイは首を横に振る。そしてミルクを一口飲んでサンドイッチを飲み込んだ。
「んー。それが違うようでした」
そう息をついた処で、言葉をつなぎ直す。
「気になった事があったので、宿の娘さんに聞いたんです。
『なぜシトラスさんは騙されていてもマーマを信じたのでしょう』って」
「で、答えはどうたったの?」
「…わかるって、言っていましたよ。
 『ずっと想っている人が気付いてくれなくても、その人の冒険の無事を願っている
し、成功を祈っている』……と」
「ふぅん……女の人って、よくわかんないや」
レモネドはそう言いながら別のサンドイッチを食べ始め、ヒスイも少し苦笑しながら……ちょっとだけ口元を綻ばせる。
「正直に羨ましい、と思いましたよ……その人が。
 その人は幸せ者すぎですよ。貴方も今に判る日が来ますから」
そう言いながら、右の頬に手を当てた。

 昼食を取り終わり、秘密基地を去る。そして紅葉通りを抜けて白樺通りへと行く。と、タンジェリンが待っていた。彼はヒスイに一礼する。
「タンジェリンさん…。実は」
「話は、彼女のお母さんから聞いています。あの後あったんだ。
 ……まさか亡くなっていたとはね」
タンジェリンは寂しそうに笑い……そのまま空を仰いだ。真っ青な冬の空は透き通っていて、佇む2人にはすこし寂しくみえた。
「……あの時は私も知りませんでした。えと、これからどちらへ?」
「彼女の墓参りに行こうと思います。貴方もどうですか?」
「もしよければ。依頼の報告もありますから」
ヒスイはタンジェリンの言葉に頷き、一緒に歩き出す。冷たい風に髪を揺らし、懐を抑える。そこにはあの手紙があった。
(…どうしたら、マーマに貴女の手紙を読ませる事が出来るでしょうかね)
そんな事を考えていると、ヒスイの口からふと、旋律が漏れた。それは……どこか悲しいセレナーデだった。それに耳を傾けつつも、タンジェリンは黙って歩き続けた。
ある、クリスマスの昼下がりの事だった。

(終)

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今回遊んだシナリオ(敬称略)
Serenade(にいかわ)

このリプレイ(もどき)は、上記のカードワースシナリオをプレイし、その結果と感想を元に書き上げております。シナリオ本来の著作権は各シナリオ作者さんのものです。また、リプレイに登場したスキルの著作権は、各シナリオの作者さんに既存します。

後書きとかいてはんせいと読む。
とりあえず、これで『Serenade』のリプレイは終わりです。
本編とはちょっと違うエンディングにしてみました。なんか物足りないとか、なんか重いとかあるかと思いますが、まぁ、色々。

66からはちょっと時計を巻き戻して『桃源郷の恋人』のリプレイ+珠華メンバーでのリプレイを慣行予定です。若干予定変わるかも。そしてその前にネフライトのSSをお届けします。

総集編は……日記形式?
by jin-109-mineyuki | 2009-12-31 09:54 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】