ある野良魔導士の書斎

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少しの疑惑と、少しの… (ヒスイ、走る!)


冒険者の宿【水繰の剣亭】:64
ヒスイとオレンジとストラップと

少年はヒスイに顔を近づけ、ヒスイもちょっとしゃがむ。こうした方がより目を合わせやすい。
「……どういうこと?」
「ほらっ!」
少年はポケットから同じストラップを出し、ヒスイと目を合わせた。
「どういう、事でしょう?」
「これは、俺達の秘密基地にあったストラップだ。だから、リーダーの証として俺が預かってるんだ」
そういい、ちょっと自慢げにいう少年。しかしヒスイはなんかぴん、と来てしまった。
(秘密基地……もしかしたら、何かあるかもしれない)
ヒスイは帽子をかぶり直すと、少年に問う。
「…ストラップのあった秘密基地に、ちょっと寄らせてほしいけどいいかな?」
(でも秘密基地って言うほどだし、何かあるんだろうなぁ……)
と、内心少し悩みつつも答えを待つと、少年は1つ頷いた。
「いいだろう」
「おや、やけにあっさり」
拍子抜けするヒスイ。少年はふん、と鼻をこする。
「ん、別に。ただ別の基地に引っ越そうと思っただけだよ。
でもただ案内するだけじゃ面白くないな……」
「いや、変な気遣いは本当にいいから」
突っ込むヒスイに、少年はじろ、っと軽く睨む。
「……お前、冒険者だろ?何か重大な事件を追ってんだな?
そしてそれに俺達の秘密基地が絡んでいる。そーなんだろ?」
と、問い詰められた。
「そうだよ。本当は守秘義務ってのがあるから……詳しくは言えないけど」
「その依頼の顛末、教えてくれるって約束してくれるか?」
「……。わかったよ。だから、教えてほしい。名前は?」
「レモネド」
「レモネドくんね。……っと、これでどう?」
ヒスイは素早く
『私、ヒスイ・エイボス・ニードルは依頼を完遂した暁には
貴殿、レモネドに依頼の顛末をご報告します。
                 ヒスイ・エイボス・ニードル』
と契約書を書いた。それを受け取ると、少年の眼が輝く。
「…ありがとう。約束だから教えてやる。場所は……」

 紅葉通りの中ほどにある細い道をたどり、奥の廃屋へとたどり着いた。素朴な作りで、子供がいるときは賑やかなのだろう、とヒスイは目を細め……中に入った。ガラクタなどが転がり、子供達が遊ぶのにはうってつけだった。そこを隅々まで調べていると……ゴミの中から皮の手帳が見つかった。
「……これは……」
呟きながら開くと、そこには女性の名前と、なにやらメモが書かれていた。その1つがヒスイの脳裏から記憶を引っ張り出す。
「……確かリスボンさんの訴えから治安隊が動いた筈。じゃあ、この手帳は去年私が捕らえた詐欺師の物……」
と、呟きながらも捲っていき……その名はあった。
―シトラス・ライム

 ヒスイは走っていた。ある場所へ向かって、手紙を持って。
(間に合ってください!貴方に渡さなくてはいけないのです!)
―ロマンチストな奴でクリスマスにセレネイドを歌ってやったら
 すっかり俺の虜に。
彼はシトラスも標的に選んでいた。大金をせしめるつもりだったようだが、シトラスは本気のようだった。複雑な思いがあるも、ヒスイはその手紙を渡す為、走っていた。
(マーマ・レイド。貴方はとても鬼畜な人です。でも、私はシトラスさんから貴方へ手紙を承っているのです!)
走る、走る、走る。人をかき分け、風を切って。自分が探していた存在は、1年前に捕らえた極悪結婚詐欺師だった。自分のした事が本当は無意味じゃないか、とも思った。けれど、直ぐに思いなおした。
―私には、シトラスさんから預かった手紙がある!
刑務所へ向かう。一陣の風となって。石畳から突き刺さる冷たさも振り払い、ただ只管。すると、目の前に馬車があった。今、まさに走りだそうとしている。
「まってくださいっ!!」
ヒスイが叫ぶ。が、遠くて届かない。馬車は走りだし、看守たちが刑務所へと引っ込む。
「まって…くださいっ!」
全速力で追いかける。が、馬車はどんどん遠くなる。
「マーマ…レイド、に…手紙が……」
息が切れる。それでも馬車を追いかけるが、どんどん遠ざかっていく。少しずつ重くなる足取りの中、ヒスイが叫ぶ。
「手紙が、あるんです!!止まって……っ!」
ばたんっ、とヒスイは倒れた。どうやら、石に躓いたらしい。その間に、馬車は遠くへ走っていく。立ち上がった頃には、既に見えなくなっていた。
「……っ」
何故だろう、荒い息をつきながら、その頬に流れ落ちるものがあった。膝が痛むのを無視し、馬車の走り去った方角を見つめていると、1人の看守が心配そうにやってきた。
「……大丈夫、ですか?」
「……ええ。これぐらい、平気です」
立ち上がろうとしたが、よろけてしまった。ズボンは破れ、膝は派手にすりむけて赤く染まっていた。そして、足首が痛かった。どうやら捻ったらしい。
「痛そうですね。手当てしますから」
看守はそう言い、ヒスイに肩を貸す。礼を述べながらヒスイはちらり、と馬車の消えた方を見……小さく唇をかんだ。

(続く)
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今回遊んだシナリオ(敬称略)
Serenade(にいかわ)

このリプレイ(もどき)は、上記のカードワースシナリオをプレイし、その結果と感想を元に書き上げております。シナリオ本来の著作権は各シナリオ作者さんのものです。また、リプレイに登場したスキルの著作権は、各シナリオの作者さんに既存します。

後書
ええと、台詞に関してはまとめちゃいました;すみません。
また、最後のシーンはあっけなかったんで着色してみました。
実は「ぎりぎりで間に合い、マーマに手紙を渡す→マーマが馬車で我に帰る」という
エンディングも考えてはいたのですが……。
もし読みたい、という方が1人でもいれば、後日「if」として書きますけど…。

あとNPCの男の子に名前がなかったのでつけました;
作者であるにいかわさん、すみません;
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by jin-109-mineyuki | 2009-12-30 23:20 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】 | Comments(0)