ある野良魔導士の書斎

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少しの記憶と、少しのぬくもりと (ヒスイ、思い出し)


冒険者の宿【水繰の剣亭】:63
ヒスイとシトラスとマフラーと

 依頼人の家を出、ヒスイは小さくため息をついた。帰る直前、母親からシトラスの絵を見せてもらったのだが……。

―1年前・クリスマスイブ
ヒスイはクリスマスイブという余裕もなくある詐欺師の足取りを追っていた。
「……くっ、一体どこに姿を眩ませたのでしょう…」
ヒスイは内心焦っていた。相手は足が速く、あっという間に姿を見失ってしまった。このままでは、逃がしてしまう。
「……拙いですね」
僅かに荒い息をつく。一体どこにいるんだろうと、考察を繰り返していると、鈍い音がした。それで我に返ったが、どうやら女性にぶつかってしまったらしい。
「す、すみません!大丈夫ですか?」
ヒスイが助け起こすと、若い女性は金髪を揺らし、はにかんだ様に答えた。
「ええ、私は大丈夫です。それより…こちらこそごめんなさい」
「いえ…。怪我もありませんし。それでは、失礼します」
ヒスイは一礼し、立ち去ろうとした……が、不意に風が吹く。
「…あのっ!」
「…はい?」
ヒスイは振り返り、その女性と瞳が重なる。綺麗な金色をした、実に優しそうな、柔らかい空気を纏った女性だった。彼女は少し頬を赤くしつつ、小さな声で
「……あの、その…」
ともじもじしている。ヒスイが小さく微笑むと、彼女は緊張を解いたようだった。賑やかな空気の中、その声は雪のように落ちる。
「時計台、綺麗ですよね……」
ヒスイも時計台を見上げ……小さく頷いた。
「ええ、とても……」
そう答え……自分のマフラーを掛けた。
「?!」
「誰かをお待ちなのでしょう?寒いでしょうし、これでよければ。では、私はこれで」
そう言い、ヒスイは駈け出した。一瞬だけ、心がほぐれた気がした。

「…もしかして、うちの娘をご存じだったのですか?!」
「ええ……」
ヒスイは小さく頷いた。
「赤煉瓦の時計台の下で会いました。とても綺麗で、天使のような方でしたから覚えています」
そこまで言い、ヒスイは胸の痛みを覚えた。
「既に2時を回っていましたが、誰かをお待ちのようでした」
「……そんな、勘違いではないのですか?」
母親は表情を曇らせる。彼女の話によるとシトラスはちゃんと出会い、聖夜を共に過ごした、と言ったという。
「そういえば若草色のマフラーをしていたわ。行く時は巻いていなかったけれど……。恋人からの贈り物だと思ったわ」
その言葉にヒスイは表情を険しくした。母親から見せられたそれは……確かにヒスイのマフラーではあったが、ヒスイは何も言わなかった。

(……1年前に、会っていたなんて……)
そう言いながら、ヒスイは1つのストラップを手で弄んだ。母親から借り受けたものだった。最後まで大切にしていたもの、と聞いたが、それは「オレンジ・ザボン」からの贈り物だったのだろうか。
(……シトラスさん……)
胸が熱い。風は冷たく、髪で隠したエルフの耳の先がじんじんと痛む。それなのに、胸の中が酷く熱く、鈍い痛みが走っている。少し頭を冷やそう、と帽子を取っていると、先ほどの少年と出くわした。
「なんだ、お前。まだいたのか」
「ええ。冒険者としての仕事で色々と」
そういって苦笑していると、少年は肩を竦めた。
「イブだっていうのに、冒険者ってのも大変だな。で……」
そこまで言って、少年は目を丸くする。ヒスイが不思議そうにしていると、少年の眼はヒスイが持っていたストラップを見つめている。
「? これに見覚えがあるのかい?」
「おい。何故お前がこれを持ってるんだ??」

(続く)
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今回遊んだシナリオ(敬称略)
Serenade(にいかわ)

このリプレイ(もどき)は、上記のカードワースシナリオをプレイし、その結果と感想を元に書き上げております。シナリオ本来の著作権は各シナリオ作者さんのものです。また、リプレイに登場したスキルの著作権は、各シナリオの作者さんに既存します。

後書
……ども、フーレイです。
ちょっとここでも色をつけております。

記憶に残るようなことをしておきたかったのでこんなネタに。
ヒスイにとっては色々辛いことが……。
なんかレーテの時と言い、今回と言い……。

……しかし、何故彼女がマフラーを持ってたのか。
実はヒスイが女に見られていた、というオチがかくされていたり。

うーわーぁ。
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by jin-109-mineyuki | 2009-12-29 21:25 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】 | Comments(0)