ある野良魔導士の書斎

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アメジの兄貴の魅力を頑張って引き出してみた (アメジ、……)



『晩秋の訪問者』

 その日は冷たい雨が降っていた。アレトゥーザの『蒼の洞窟』では1人の少女と1人の男がその奥で茶を啜っている。男の顔には殴られた跡があり、手当てされていた。
「……でも、何故そんなにまでなってここへ?貴方はこの町が嫌いだったでしょう?」
目の前の少女が心配そうに問う。が、男は苦笑した。青々とした空間で、黒いローブを纏った彼は苦々しい顔を一度浮かべ……ゆっくりと少女と目を合わせる。
「あんたの顔が見たくなった。それだけさ」
そういうとゆっくりと茶を飲む。僅かに見えたくすんだ金髪を揺らし、彼は小さくため息をついた。ローブの中で何かが動き、僅かに見えたふさふさの尻尾に、少女は苦笑する。そして、何も言わずお茶を口にした。
「私の顔を…ですか」
顔を上げると目の前の男はいつになく真面目な顔で見つめていた。細い瞳が引き締まって見える。自然と背筋が伸びた。そして、男の唇が動く。
「なぁ、レナータ。……村に戻ってこないか?」
顔が動く。と、同時にフードが取れた。カンテラに白い肌とくすんだ金色の流れが照らされる。と同時にぴんっ、とたった狐の耳が姿を現した。
「アンバーやネフィもいるし、お袋や村長たちもレナータには戻ってきてほしいみたいだし…」
「気持ちは、嬉しく思っています。けれど、水の精霊との交信にはここが丁度いいのです」
レナータと呼ばれた少女は男にそう言い、小さく笑う。
「アメジもそうでしょう?貴方は霜の精霊と交信しやすい場所に庵を構えていると聞きましたが?」
「あれか。そんなもんと思っておけ」
アメジと呼ばれた男は他人事のように返すともう一度お茶を口にした。

 晩秋のアレトゥーザ・蒼の洞窟。その奥に暮らす精霊術師のレナータはその日、偶然にも街を嫌う幼馴染、アメジストと出会った。が、彼は顔や手足に痣を作り、ボロボロの状態で路地裏に座り込んでいた。荒い息を必死に落ち着かせようとしているようにも見え、レナータは彼を自分の暮らす場所まで連れてきたのである。何故彼がそうなったのか。理由がレナータにはなんとなく判っていたが、アメジストが珍しく答えてくれた。
―聖海の坊主どもと喧嘩して負けた。
恐らく一方的に因縁をつけられたのだろう。アメジストは精霊術師である前に狐のワービーストであった。それ故に聖海教会の人間は―ごく一部ではあるが―≪汚らわしい妖狐≫と彼を見ている。幼いころ、村の人間達と共に街へ来た時も数人の坊主たちから暴行を受けそれ以来彼は街の人間を嫌う節があった。
 そんなアメジストが危険を冒してまでアレトゥーザに来た。その事が何を意味するのかも彼女には分かっていた。普段は面倒な事が嫌いで、他人にあまり関心を示さない彼が自分のところまで自分からやってくるという意味も。それが、さっきの言葉だった。
「……やっぱり、駄目か」
アメジストのため息が空間に溶ける。良く見ると彼が普段から連れている霜の精霊が肩をすくめていた。狐の耳が震え、頭の上にいた霜柱の精霊もまた苦笑を浮かべている。
「セルゲイ爺もカロンもやれやれ、って言ってるぜ……。ったく…」
そういいながら、アメジストがまた狐の耳を震わせる。彼の左耳には棘のような紋様が刻まれている。立派な【精霊術師の徴】であり、彼からしてみれば「自分である証」でもあるらしい。それを否定するこの街を、彼は酷く嫌っている。だから…もあるかもしれない。
「気が変わったら手紙をくれ。俺は迎えに行くぜ?」
「ええ、そうしますね。気が変わったら」
そういい、互いに笑いあう。けれどアメジストはどこか寂しそうにレナータを見た。レナータも少し表情を曇らせる。しばしの間、揺れる水面の音と天井から落ちる水の音だけがそこに満ちた。何も言わず、2人はただ見つめ合う。が、アメジストは無言でレナータの傍に座り直すと、ぽつり、と言った。
「……俺はあんたが嫁に来てくれたら嬉しい」
その言葉にレナータは思わず息をのんだ。村を離れる前、確かに彼はレナータに求婚した。その時はてっきり酒の勢いだと思って相手にしなかったが……。
「アメジさん…あれは本気だったのですか?」
「でなきゃ『嫁に来い』なんて言わねぇぜ」
驚いたままの瞳に、真剣な紫色の双眸が映る。
(嗚呼……)
そこまで聞いて、レナータの眼がさらに見開かれ…考察がまとまる。彼がどんなに自分を想っているのか。そして、あの村で一緒に生きたいと思っているのか……。けれど、答えは決まっていた。例え本気でも…彼女にとってアメジストは「幼馴染」の域を出ない。それに、恋愛よりも今はもっと大切な事がある。ぎゅっと瞳を閉ざし、いつの間にか首を横に振っていた。
「レナータ……やっぱり…だめ、か…」
アメジストの声は明らかに落胆している。こんな声を聞いた事は一度もなかった。何時もけだるそうで、楽しそうな声しか聞いた事がなかった。あんな真剣な声は初めてだった。
「ごめんなさい、アメジ兄さん。私は貴方の想いに答える事ができません」
「いいよ。男として見れないならば」
いつもの気だるそうな声に戻り、アメジが苦笑する。そういって耳を掻く癖は昔通りだ。思い通りにならなかったり、いい結果を得られない時、そんな思いを悟られないように苦笑を浮かべる。この男は人前で滅多に悔しがったり、泣いたり、泣き言を言わない。
「変わっていませんね……」
思わず呟いた。彼は初めてであった頃から全く変わっていない。師匠に連れられて来たあの村で出会ったときと……。それが聞こえなかったのか、はたまた聞かなかったふりなのか、アメジストはお茶を飲んでいる。
「別に……」
そう言ってお茶を飲み干すと何事もなかったかのように瞳を閉ざし、壁に背を預ける。
「世話になったな。夜が来たらそのまま帰る。狐になればそんなに危険じゃねぇだろう。少し休んだら出ていく」
「えっ? 今夜だけでも泊って行った方が……。傷が酷いですし…」
「休めば問題ない。それに恋人でもない女のトコに泊ったら危ないだろ?男はみんな狼になるんだぜ?」
いつものように気だるそうにそういいつつも、何処か棘のような、自制のような、釘刺しのような言霊が飛んだ。それっきり、レナータが何か言ってもだんまりを決め込むアメジストだった。

 夜になった。目を覚ましたアメジストはレナータが作った夕食を食べるとお茶を一杯飲んだ。そして、直ぐに立ち上がる。
「もう、行くのですね」
「ん。多分明日には家に着くだろう。聖海の坊主どもと面合わせるのも厭だし、とっとと帰るぜ。ま、気が向いたら手伝いに来るから」
口元に、柔らかい笑みがこぼれる。レナータが立ち上がると見送りはココまででいい、とアメジストの手が止めた。
「多分雨は止んだだろうし。…じゃ、またな」
「…気をつけてくださいね」
そういい、レナータが一礼する。アメジストはローブを正すと出口まで歩いて行った。夜の帳が街を包んでいて、雨は霧雨に変わっていた。それでも気にせず歩いて行く。そして蒼の洞窟を出てしばらくすると物陰で狐に変わり、細い路地をとことこ突っ走った。淡い金色の毛並みが湿気を含み、枯れた草花の匂いが鼻を掠めた。
(……ダメだろうな。俺じゃきっと……)
そう思うと胸が痛かった。聖北の坊主に殴られるよりも、見世物小屋の男に鞭で打たれるよりも、あばら骨を折られるよりも痛かった。けれど、それでもいいと思った。レナータが精霊術師として立派になるのはアメジストだって嬉しい事だ。それに自分じゃ彼女に釣り合わない気もした。
(他に好きな男が居たって、祝福しよう。俺は…アイツの幼馴染なんだ)
不意に、想像した。彼女を抱きしめる他の誰かの姿。喜んでやろう、そう思うのに胸の奥が痛かった。
(俺はレナータに負けないぐらい、いい女を探す。もっと俺らしく、それでいてもっといい男になればいい)
元から、性格的に女々しいというのはわかっている。だからそれを口にせずどうにかしていた。こんな思いをするたびに、胸が痛く…そして…魂の奥が熱くなる。
(見ててくれよな。俺の変化を!)

 あの夜から時が経った。レナータもアメジストも冒険者となっている。そして、前のように楽しげに向かい合っている。この日も雨で、2人はアンバーが焼いたピザを食べながらその時の事を思い出していた。
「そういえばレナータ。あの時は急に『嫁に来い』って言ってすまんかった。ま、驚くわな」
「いつになく真剣でしたから、その事にも驚きました。何時もどこか気だるそうな姿しか観ていませんでしたし」
苦笑するレナータにアメジストはふふ、と大人びた笑顔を見せる。そしてそつなくナプキンを渡し、口元を示してチーズが付いている事を教えた。
「わっ、す、すみませんっ」
「気にするな。…で、いい男でもできたか?」
「何言ってるんですか…」
「いや? ちょっと色っぽくなったとか思ってさ?」
何気なくそうからかう彼が、何故だろう、あの夜よりも、村にいた時よりも…この世を楽しんでいるように、輝いているように思えた。

(終)




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後書き

ども、久々の更新はアメジの失恋話でした。フーレイです。

 レナータは『アレトゥーザ』に登場するNPCでカードワースリプレイではY2つさんとこのリプレイでも登場しているかわゆい精霊術師です。僕のリプレイやSSではアンバー、ネフライト、アメジストのソレント付近出身トリオと幼馴染ってしていますが、今回はアメジの失恋話です。未練も吹っ切れたし、今じゃ幼馴染と思ってますけどねぇ。まぁ、過去には想いを寄せたこともある、ということです。

 今後レナータが誰かと恋愛するとかは解りませんけど、こっちは完全に幼馴染として時折ださせていただこうと思っております。そして全部をいっきにあげようとしたら「八文字以上消去して云々」と出た(タイトルが)。わお。
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by jin-109-mineyuki | 2009-11-20 18:42 | 冒険者の宿【水繰の剣亭】 | Comments(1)
Commented by 相方さん at 2009-11-22 13:41 x
この作品を読むのは初めてであるため、ストーリーの流れが掴めていないため、あまり批評になるかどうか不明ですが・・・。
キャラ同士の想いが伝わってくる会話で、あとほんの少しキャラの心情描写を増やせばさらに良くなると思います。
レナータの想いのシーン、ここのところは心の葛藤、心が揺らぐ描写があれば、キャラの心情が読者により伝わるでしょう。
また会話シーンは心情だけでなく、キャラの感情もよく出ていると感じます。

あまり批評と言えるものではないですが、また指摘などがあればいつでも引き受けます。