ある野良魔導士の書斎

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第一話:目覚めた眠り姫(2)


「元気、ないね」
ぽつり、エルデルグがそう言った。別々に朝食を取ると二人は場所を近くの公園に移し、話していたのだが開口一番、彼は瞳を重ねて言い放った。イリュアスはドキリ、としてしまう。ほんの少し頬が引きつったが、気にしない事にした。
「そう…かな?」
「ああ、なんだか元気ない」
イリュアスの声が少し細くなる。何故か怯えているような気もするエルデルグ。彼は僅かに首を傾げつつも頷いた。若草色の目が優しくて、思わず頼りたくもなる。けれどそんな所を見せたくはない。同業者だから。
「疲れでも溜まっているんだと思う」
そっけなくそう言うと、イリュアスは身を翻した。今日は一人で町を歩こう。少し何時もと違う事をしてみれば、少しまともに戻るかもしれない。そう思うほどに今の彼女は『自分』から言えば『調子が狂っている』状態だった。今の自分は冷静ではない。すぐ感情的になる。そして、油断すれば、あの人の事を思い出してしまう。
(あの人、今頃どうしているんだろう)
何気なくそんな事を思い出し、唇を噛み締める。慌ててかぶりをふり、早足になって止まっている部屋に行く。
「イリュ?お、おいっ!」
エルデルグが追いかけるがイリュアスは振り向かない。ずんずん、廊下を進み、階段を上る。思い出していると泣きたくなる。そんな事で泣くなんて、自分らしくない。やっぱり、どこか狂っている。明日にはここを出よう。別の仕事に請け負わなくては。そうだ。戦いの中に身をおけば…。バタン、と戸を閉める。エルデルグは必死に追いかけてドアを叩くがイリュアスは聞かないことにした。服を着替えようと思い、鞄を見る。が、そこには何時もの戦いに向いた、質素な服ばかり。まあ、仕方ない。自分は『自分』であって、『女の子』とは程遠い。思い込んでいる間、エルデルグはイリュー、と間延びした声で呼んでいる。
「少し、困らせてやるか?」
イリュアスはくすり、と笑って自分に問う。しかし一度首を横に振り、扉を開けた。エルデルグはやはり心配そうな顔で彼女を見ている。が、何時ものような表情の友達に、彼は少し内心で、安堵の息を吐いた。
「機嫌を損ねたようだね。悪かったよ」
「いや、私こそ大人気ないことをした。…すまなかった」
イリュアスはそう言うともう一度廊下に出た。部屋に鍵を掛ける。宿の外に出かけながら、必要な物を考える。ああ、そういえばマーマレードが無くなっていたな、と思い出す。
「買い物へ行こう。…出来れば、『仕事』の情報も探しに」
「了解!」
エルデルグはにっ、と陽気に笑った。楽しげな彼が、イリュアスには少し眩しく映った。
その時、僅かに左腕がドクン、と音を立てた。
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by jin-109-mineyuki | 2005-03-28 10:44 | 小説:竜の娘(仮) | Comments(0)