ある野良魔導士の書斎

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所詮、世界はネタに満ちている (咲乱、里帰りは)


 しばらくして導乱がいくつもの料理を持ってきてくれた。おいしそうな匂いに3人の食欲も刺激される。咲乱たちは喜んで料理を口にした。が、それはどれも微妙に精進料理……だったりした。
「……よくみると、これ…お肉じゃないネ」
「うん。豆腐をつかってあるんだよ」
「俺も最初は豚肉っぽく見えたけど揚げだったな」
縁、咲乱、雅己の三人が食後のお茶を飲んでいると結がにこにこと口を開く。
「それはそうですもの。水繰家と真行寺家が正式に同盟を結ぶ為の式がありますから。それに、長老や他の皆さんにも縁さんをお披露目しないと」
その言葉に、縁と雅己は目が点、になった。導乱と咲乱は顔を見合わせる。
「なぁ、親父。2人分の白装束あるの?」
「なぁに。歩弛(ほたる)が一晩で準備してくれたから」
2人の会話に、客人2人はどこか不思議そうに首をかしげた。

シルバーレイン・プライベートSS
『桜、里帰り(前略)大分の洋館より』(中)

 時間は夕方。温泉で湯浴みをして体を清めることになったので雅己は咲乱と導乱とともに、縁は結と雪路とともにそれぞれ風呂場へ向かう。
「服はどうするんだ?」
「ああ。脱衣所に置いておけば後から運ばせるさ。既に着替えも用意してあるから」
雅己の問いに導乱が答え、その後ろでは使用人と思わしき男女がすぐに動いている。
「それじゃ、また後デ。のんびり浸かってくるヨ」
縁はにっこり笑って雪路たちについていく。咲乱が頷き、男性陣もまたお風呂場へと歩いて行った。僅かに沈みかけた日の、琥珀色を帯びた光の中、三人はとことこと歩いていく。
「なぁ、親父」
「ん?」
不意に、咲乱は父親を見上げて声をかける。
「なんか、昼食中元気がなかったみたいだけど?」
「いや、ネットセッションで『クトゥルフの呼び声』を久し振りにしたんだけどさ。……狂気に陥って最後にニャル様に喰われて死んだんだ、PCが……。それを思い出して」

……………。

2人の間に何とも言えない空気が広がる。
「……何の話だ」
雅己は突っ込みたそうな顔で2人を見ている。と、いうより隙あらば2人まとめてこめかみぐりぐりしそうな雰囲気だ。が、咲乱は首をかしげる。
「いや、俺はわからん」
「だったらスルーしろ。それが大人ってもんだぜ」
導乱がカラカラと笑うが2人はジト目で現水繰家当主を見ていた。と、今度はとたとたと一匹の猫が廊下を歩いているのが見えた。
「へぇ。咲の家にも猫が……」
雅己がそう言ってその猫を見ていたのだが……微妙に胴が長い。思わず歩みを止めて見入っていると、その猫はおわぁ~~~~~と間延びするような声で一声鳴き、導乱や咲乱の足に体をこすりつける。
「あ、そいつはノビって言うんだ。友達のとこからもらってきたんだよ」
頭をなでなでする咲乱。ノビと呼ばれた猫は雅己が出した手の匂いを嗅ぎ、しばらくすると安堵したのか頭を足にすりすりしてきた。
(うん、胴と鳴き声が長い以外は普通のネコだよな)
なんか和んだ。ちょっと色々長い気がするが、なんか和んでいた。導乱はこの猫を「ノビた~ん♪」と呼んですっごくかわいがっている。そんな様子に、ちょっとひきかけた雅己だった。

 一足早く風呂場について縁は衣服を脱ぎ、温泉にいた。どこかほっとする空間ではあるが戦争での傷がやや染みる。しかし……。
(どこか似ているようで、違う。違うようで似ている)
縁はふと、瞳を閉ざして思った。彼女は忍びとして生まれ、忍びとしてこれまで過ごしてきた。その『忍里』と似た空気を、この家は宿している。しかし、それは何か質が違い……、そうか、と彼女は納得する。
(この家は魔法使いの血筋。その部分を隠す必要がある……)
「縁さん、お湯加減はいかがかしら?」
不意に、顔を上げて瞳を開く。声は隣からで、湯着を纏った雪路に手伝ってもらいながら入浴をしていた結だった。咲乱よりも白い肌と、艶々とした黒髪が光に映えている。軟らかな湯けむりと空気に縁も甘いまどろみを覚えつつ、頷く。
「いいですネ。湯治にはもってこいじゃないかト」
「ありがとう。うふふ、この温泉は誇りですもの」
結が心から嬉しそうに笑い、雪路もまた頷く。ハンサムなその目が縁の赤い瞳と重なる。
「そして、水繰家にとっては清めの物。儀式の際は必ずこの湯で沐浴を行うようにしているのです。海堂さん…いいえ、縁様も水繰家に嫁ぐ際は婚礼の前にここで【濯ぎの儀】を行う事になります」
「!」
思わず息を詰まらせる。雪路はその様子にくすくす笑い、結もかわいい、と呟いて縁の頬に触れる。
「こっここっ、婚礼って……そんな……」
「あら? 私はそう思ったの」
結はにっこり笑って、そっと縁を抱きしめた。

 男湯。衣服を脱ぎ、風呂場で体を洗い始めた三人は何故か微妙な空気が流れていた。
「………」
「………」
「喧嘩、すんなよ?」
ぎろっ、と睨む雅己に縮こまる水繰父子。何かが違う、と思いつつも2人は黙々と体を洗う。因みに他人が見たら近寄りがたいのはそれだけではない。三人とも体は鍛えられており無駄な脂肪は全くと言っていいほどない。それを飾るのは幾つもの傷だ。そして咲乱の胸には真新しい刀傷があり、前から持っていたそれまで唯一だった刀傷と交差していた。
((……どこぞの人斬りか))
そんな事を考え…そういったら自分の方が近いか、なんて思ってしまう雅己と導乱だった。

「ん? 丁度だったようだネ。凄くよかったヨ」
「確かにな。お前んちが人気の温泉宿ってのがわかる気がするよ」
入浴後。縁と雅己に褒められ、咲乱はすこしてれてれとした笑顔になる。やはり実家の自慢である湯を褒められるのは温泉旅館の息子としては嬉しいことなのだ。そんな咲乱のポニーテイルをぐいっ、と引っ張った導乱が2人をみて嬉しそうになる。
「さっすが歩弛!2人ともぴったりだったようだな、白装束」
「久しぶりに力が入っちゃった~。ま、本格的に真行寺家ご当主様が仲間入りし、縁様がさっきゅんと結ばれたら身印(みしるし)入りが作れるんだけど」
導乱の隣には小柄な女性がいて、満足そうにうんうん頷いている。赤い瞳に燃えるような短い赤毛の女性は水繰 歩弛と名乗っていた。咲乱の叔母で普段はロンドンにいるらしいがこの度の一件で夫と共にやって来たらしい。
「……前に1度聞いていたが、本当だったんだな」
「そうみたいだネ。しかも上質の木綿ときタ。何かの意味合いがあるんだろウ?」
「そうとしか思えないがな」
雅己と縁が話しながら白装束の集団を見ていた。咲乱曰く今宵は真行寺家と水繰家の協力関係を締結させる調印式と、次期当主の恋人……花嫁候補を一族にお披露目する『清らかな』儀式だそうな。
「だから、客人にも白装束を纏ってもらうんだ。まぁ、窮屈かもしれないけど……ごめんな?」
咲乱は何時もの気さくな笑顔でいう。が、その井出達は普段のお気楽さとは違う、どこか淑やかな雰囲気を纏っていた裾には、白い糸でツバキが刺しゅうされている。一方導乱のはヤドリギ、歩弛のはコデマリだった。
(綺麗だナ……)
縁がまじまじと見ていると何時の間にか白装束を纏った少年少女が咲乱の周りにいた。中には雅己や彼女のように身印が入っていない白装束を纏っている者もいることから、自分たち以外の客人もいたんだな、と認識する。その中に、白い髪の少年がいた。
「……」
「……」
縁と少年の目が合う。が、それは一瞬。しかし、それで彼女は感じた。
「ん?どしたの、縁」
不意に咲乱が人を描き分けて言う。彼女は首を横に振り、雅己が2人に声をかける。よく見ると導乱が結、アシタと共に手招きしていた。

 3人は導乱たちに連れられ、水繰家本邸の奥へとやってきた。恐らく20畳は超えるであろう広間にざっと30人ほどの人間が集まっている。上座には初老と思しき女性がおり、その両脇を導乱を初めとする7,8人の男女(しかし殆どが女性)が固めていた。
「親父は水繰家の当主。で、あとは水繰家の分家の当主たちだ。で、真ん中は長老。儀式の時の進行役で俺のばっちゃだ」
咲乱の説明に、雅己と縁は頷いた。一応船の上で水繰家については軽く聞いている。そしてこの式には本家と7つの分家の当主と次期当主が出席する事も。
「当主の補佐として次点と三守がいる。で、当主、次点、三守はこの8つの家のうち裁定者たる土治家を除く7つの家の人間から選ばれる」
「土治家の役目ハ、次期当主がその器に等しいカを試ス事。ここと前当主たちからなル【元老陣】に認められなければ当主にはなれない、カ」
「ま、魔力・精神力が優れていて尚且つ統率力とか諸々が判定基準か。そんなとこ。なんだけど二代連続で男性が当主ってのは初めてなんだわ」
三人が小声で話していると雪路が口を開いた。
「これより、真行寺家・水繰家の同盟調停式及び次期当主の花嫁候補のお披露目を行います。私語を慎み、携帯電話・ポケットベル、PHS、その他通信関連の魔導具・詠唱兵器は電源等をお切りくださいますよう、ご協力お願いします」
なにやらごそごそと音がし、静まった処で蝋燭の火が落とされた。

―儀式が始まる。

しかし、問題はその後に待っているものという事に……この時、2人は気づくはずもなかった。

(続く)

・・・・・・・・・・・・
後書き

本当はおきらくごくらくの前・後編の予定が微妙にシリアス混じり?
第一に新しい単語できちゃったよ。……身印(みしるし)。

まぁ、水繰家の人間は性(さが)である植物があり、魔力を具現化させるとその植物そのものやその一部(花弁や葉、花、根等)になるのです。で、それがそのままトレードマークになるので身の印で【身印】となります。嫁いできた人間は具現はできる…かは本人次第ですが判定があるのですにゃ。

……導乱が『クトゥルフの呼び声』のネットセッション……まぁ、気にしないでよ。あと、ノビたんについては銀雨PCである嘉禄さんの結社のRPスレにて登場。そして前編に出た導乱のゲームが云々は現在咲乱の下宿先であり結社のイベスレでのネタでございます。んで次回も雅己さんと縁さんには出ていただきます。おかしかったら容赦なく手紙やメッセでどついてね。

最後に。
咲乱たちが纏っている白装束。実はモデルが。ゲーム『俺の屍を越えて行け』で一族の人間が普段纏っている着物がありますよね。アレです。
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by jin-109-mineyuki | 2009-04-16 22:59 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)