冒険者の宿【水繰の剣亭】:52
深淵から帰ってきた踊り手
【水繰の剣亭】の二階。ここで冒険者たちは寝泊まりしている。その一番日当たりがいい部屋でアンバーとサードニクスが寝起きしていた。今はアンバーとネフライトしかしない。
「……アンバー、その手……どうしたの?」
ベッドに腰かけたネフライトは隣に座る許嫁の手をとり、真面目な顔で問う。
「話すと長くなるけど、簡単に要約すればメロアって水棲族の子との絆の証かな」
アンバーはそういって小さく笑うも、ネフライトの心境は複雑だった。彼女は精霊使いではなかったが、そういう物を感じることは多少出来る。そして、鱗に触れたとたん、彼女には、そのメロアという人物が何をしようとしたのか、がなんとなくわかったのだ。
「……なんか、妬いちゃうかも」
「?」
鱗に指を這わせたまま、ネフライトは小さくため息をつく。アンバーが不思議そうな顔をしていると、彼女は力任せにアンバーへと抱きついた。
「うわっ?! ちょ、ちょっとネフィ!!」
「だって……自分だけのものにしようとして…その…種族を変えようとしたんでしょう?」
そういいながら、ネフィは甘えるように頬を寄せる。普段ならばちょっと機嫌が悪くなる程度だろう、と思っていたアンバーからしてみれば意外な行動だった。むしろ、内心ちょっと嬉しいかもしれない。
「それでも、なの?」
「あの子はずっと一人ぼっちだったんだ。寂しくて、寂しくて、すっごく悲しかった。だから…我慢できなかったんだ」
そこまでいい……アンバーもまた、ネフライトを強く抱きよせる。
「! アンバー……」
「俺も同じだった。暗い深海で、俺は寂しかった。記憶を弄られている間も、寂しくて、寂しくて我慢できなかった。だから皆のことを思った。サードニクスや、お前の事を……」
今でも、あの冷たい水の感触を思い出せる。自分から抜き取られようとした記憶。そして……永遠に失いかけた居場所。
「戻れてよかった。皆には感謝してもしきれない。もし戻れなかったら……俺、お前のもとに帰れなかった……」
一方、オニキスとパールの部屋では隣の様子が気になるパールとアメジストが壁に耳を押し付けていた。そんな様子をオニキスとサードニクスは見つめている。因みにアメジストは複雑な心境なのか尻尾がやや膨らんでいる。
「……デバガメなんてみっともない」
「まぁまぁ、みんなやきもきしているんだよ、たぶん」
呆れるオニキスを窘めつつ、サードニクスは苦笑した。が、ちょっとだけ二人のいる方向に顔を向けた。
「僕、本当に安心した。だってさ……アンバーがいなくなったら、僕……壊れたかもしれないもん」
「貴方にとって、アンバーは恩人であり親友ですからね」
オニキスはそういいながら紅茶を飲みそっと、サードニクスの頭をなでてやる。ちらり、とその様子を見たパールは小さくクスッ、と笑った。
「最初はただマリナって子からサメの卵を預かって精霊宮まで持っていくだけだったのにね。あんな騒動になるなんざ思ってなかった」
一階のカウンター。そこではクインベリルがギターをかき鳴らし、歌をうたっている。それは【六珠】がかかわったあの事件についてだった。コーラル、タイガーアイ、トルマリンの3人はジャスパーと共にその歌に聞き入っていた。
「……アンバー、そういえば精霊使いの素質……ほんのちょっと持ってるって、アメジストがいってたな」
歌が終わるや否や、コーラルが呟いた。ジャスパーは小さくため息をついてジンバックに口をつける。
「多分、そこでしょうね。狙われたのは。
しかし……マーレウスが力を貸してくれたお陰で、アンバーを助けられたわ」
「そうだね。メロアのやったことに気づいてくれたお陰だねぇ。けど、一人で償いのために働き続けていたら……ねぇ……」
クインベリルはため息交じりにそういい、言葉をつづけた。
「溺死者の祠で孤独に耐えかねた罪深き乙女の歌、か」
「そこへ向かって、アンバーを取り戻したのね」
タイガーアイは目を輝かせ、ジャスパーとクインベリルは頷く。が、そこへ至るまでには協力してくれた水の民の事を忘れてはいけない。
「族長に、ペルナに、フルクアに、オルクス。この四人がいなかったら絶対助けられなかった。まぁ、オルクスはたぶんメロアに惚れてたんじゃないかな?だから陸の民が嫌いだったのよ。陸の民に興味を持ってしまったから、メロアは罪を犯してしまった…とか、ね?」
クインベリルがそんなことを呟くとジャスパーがくすくす笑い、トルマリンたちは目を丸くする。
「どうしたのよ、ジャスパー」
「ふふ、ただオルクスの事を思い出しただけ。あの人、『一人ぐらい捨てておけ』とか言ったんだけどその途端パールがコークスクリューかましたのよね」
……なんでまた、といいたそうな目を向ける一同。ちなみに、それが原因でしばらく殴り合いになったというのはここだけの話である。しまいには「ツンデレ人魚」というあだ名をつけていじっていた、なんて言えるわけがない。
「すいすいって水の中を進めたのはすっごく貴重な体験でしょうね。不謹慎かもしれませんけど、うらやましいな…」
トルマリンの言葉に、二人は苦笑しあった。
回りがいろいろ言う中、アンバーはネフライトの胸で泣いていた。こうして帰ってこれたことが嬉しくて、ずっと泣いていた。許嫁はずっと、彼の頭を撫で、やさしく抱きしめていた。
そう、ずっと……。
(続く)
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今回遊んだシナリオ(敬称略)
深き淵から(cobalt)
このリプレイ(もどき)は、上記のカードワースシナリオをプレイし、その結果と感想を元に書き上げております。シナリオ本来の著作権は各シナリオ作者さんのものです。また、リプレイに登場したスキルの著作権は、各シナリオの作者さんに既存します。
後書き
脚色させていただきました。いろんな意味で、
あと、次回は過去にやって大好きだったシナリオをっ!
でも、メロアはでるという罠(ぇ)。
そして、なんだかんだで進展している許嫁コンビの仲でした。
許されるならカップル用のえちぃシナリオもあるしさ、この二人でって思うけど。
……さすがにリプレイにできないんだよねぇ(笑)。
因みにこの後何があったのか、後日SS化する所存です。つか発展しました(ぇ