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ある野良魔導士の書斎

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春休み内の出来事です (咲乱、里帰り+アルファ)


 流れる景色を見ながら、ため息をつくものが1人。車は黒塗りではあるがベンツではない。が、高級車であるのは間違いがなかった。
「……つか、これ本当に中古で100万だったのかよ」
「ええ。旦那様が値切りました」
「……親父」
運転している青年の言葉に、思わず唸る。と、傍らの青年が小さくため息をつく。そして、反対方向にいた女性は右腕の包帯を気にしながら顔をあげた。
「親父から聞いた通りの人物のような気がした」
「そう言えば、雅己と咲乱ってお父さん同士が先輩と後輩だっケ?」
雅己と呼ばれた短髪の青年と、咲乱と呼ばれたポニーテイルの青年が1つ頷く。因みにこの2人と同じ年齢差である事も蛇足ついでに付け加えておこう。そんな3人の会話を楽しく思いながら運転手は口元を綻ばせた。それは、薄紅の花綻ぶ、春のある日のこと……。

シルバーレイン・プライベートSS
『桜、里帰り、(前略)大分の洋館より』(前)

 水繰 咲乱(b36038)は服の上から包帯の感触を確かめながら門を見る。水繰家第二邸の正門には彼に招待された真行寺 雅己(b22347)と海堂 縁(b30348)が並んでいた。3人の荷物は先ほど車を運転していた使用人の鈴木さんが運んでくれるという。
「んじゃ、入るぞ」
咲乱が門を開き、その後に2人は続く。佇まいのある洋館へと歩いていくとその途中雅己はどこか懐かしい気分がした。写真で見たかもしれない。
(親父も何度か来ているみたいだしな)
あたりをそんなふうに見渡していると縁が何かに気づいた。
「あの人ガ咲乱のお父さン?」
「ん?」
咲乱が顔を上げると、視線の先に赤毛の男。目元がどことなく咲乱に似ているなぁ……と思っていたらなんか走ってくる。
「なんか表情が険しいぞ。何かしたんじゃないのか?」
雅己の言葉に、咲乱が少し気まずそうな顔になる。と、同時に

「馬鹿倅!俺のゲーム売りやがったなーっ!!」

「「…………」」
絶句する客人2人。咲乱はといえば重傷を負っているのに臨戦態勢を整えている。よく見ると手にはイグニッションカードが握られていた。
「って一般人相手にイグカ使うな!!」
「親父は一般人じゃねぇ。能力者ではないにしろ真行寺流の剣術と水繰家の伝わる魔術を使う『異能使い』だからセーフだって」
「第一に重傷中だから起動してモ、そんなに力は発揮できないヨ?」
雅己の突っ込みに苦笑しながら答えるが、縁の指摘はもっともである。あ、そうか、とイグカを懐に直していると赤毛の男……咲乱の父親が息も乱さずやってきた。と、いうか咲乱めがけ木刀を振るう。
「あん中にはレアものもあったんだぞ馬鹿倅!」
「いや、パソゲーを息子に送りつけて匿ってって方が間違っとるから!!」
それを手持ちのカバンで受け流して叫ぶ咲乱。客人がいるのにも関わらず一触即発になりかけたが…
「さ~く~」
びくっ!!?、と雅己の言葉で咲乱の背筋が震える。同時にその父親もまた身動きを止めた。
「「ごっ、ごめんなさい……」」
親子揃ってどこか震えた声。そういう反応を起こすのは何か深い事情があるのだろう、と縁は何も問わずそう考えた。
「……んー、とにかく、すまなかった。こっちの赤毛で長身なおっさんが俺の父です」
「どうも、父の導乱です。うちの馬鹿倅が世話になっています」
咲乱が手を伸ばして父親を一礼させようとし、反対に導乱は息子の頭を下げさせる。そんな兄弟のような父子に雅己と縁は似たもの親子だなぁ、と考えた。
「真行寺 雅己です。いつも父がお世話になっております」
「海堂 縁といいまス」
雅己と縁が挨拶をすると導乱は怪我している息子の頭をくしゃくしゃに撫で、先ほどとは比べられないほど優しい笑顔になった。
「雅己君については息子と修夜先輩から話は聞いてる。いつも馬鹿なこいつの面倒を見てくれてありがとうな!」
と、右手で雅己と握手しつつ片手で咲乱のポニーテイルをくいくい引っ張っている。後ろで咲乱が叫ぶが、傷が痛んだのか言葉になっていない呻きが……。
「そして縁さん。咲乱のような青いガキと仲良くしてくれているようでおっさん感激だよ!つーかこんなかわいい娘欲しかったーっ!」
「うわアっ!」
と、縁には歓迎のハグをしようとしてかわす縁。同時に咲乱の拳が導乱を襲う!
「縁が驚いてるじゃねーか馬鹿親父!」
「いヤ、僕は大丈夫だかラ」
息巻く咲乱に縁がぽつり。しかしすっかりテンションが上がっているらしい父子には届いていないようで雅己と顔を見合せ、ため息をつく。
「これで水繰家当主と次期当主というのが滑稽ですわ。ああ、恥ずかしい」
急に声がした。いつのまにか2人の背後には漆黒の髪を丁寧に結い上げた妙齢の女性が佇んでいた。纏っている若草色の着物も似合っており、年相応の色香を漂わせている。背後で父子喧嘩が始まろうとしているのを無視し、彼女は雅己と縁を見、にっこりとほほ笑んだ。
「私は水繰家次点を務めております、影釣 雪路(かげつり ゆきじ)と申します。真行寺さん、海堂さん、当主と若様に代わりましてわたくしめがお部屋へご案内いたしますわ」
「は、はぁ……」
呆気にとられた雅己は生返事を返し、縁もまた少しだけ目を丸くする。何か後ろの方で傷口が開く音とか、拳のふるわれる音とか生々しく聞こえるが
「あれはほっといていいわケ?」
「いや、放っておいていい。うん、多分」
「いつもの事ですから」
縁は雅己と雪路の言葉に納得し、歩き始めた。
因みに咲乱はこの親子喧嘩が原因で胸の傷が開いた……らしい。

「全く、貴方達はいつもいつもこうなんだからっ!」
「「ごめんなさい」」
雅己と縁がそれぞれの部屋で荷物を確認し、客間へ行こうとすると……こんな声が聞こえてきた。声の主は背の高いスレンダーな女性だった。落ち着いたワンピースを纏った、愛らしい女性だ。瞳を閉ざしてはいるが、厳しい表情をしており、その前に咲乱と導乱が正座して頭を下げている。女性の傍には黒いラブラドールレトリバー。体にはハーネスが付けられているところから盲導犬らしい。
「お客様の前で喧嘩するなんて、2人らしいけれど。……あら?」
どうやら2人に気づいたのか、女性は顔を真っ赤にし頭を下げる。お客様?と正座している2人に問い、咲乱と導乱は頷いた。
「ああ、おふくろ。お世話になっている雅己先輩と、縁だ」
そう言いながら咲乱は2人の手と母親の手を重ねる。咲乱から盲目であるということを船で聞いていた2人はふと、彼女を見た。ふわふわとした漆黒の髪や耳の形はどうやら母親譲りらしい、と思える。
「この剣だこのある手は雅己さんかしら?そして、このかわいい手は縁さん?はじめまして。咲乱の母の結(ゆい)といいます」
手に触れながら、結は笑顔であたまを下げる。2人も自己紹介をすると結はさらに嬉しそうな顔をする。
「俺の自慢の妻だ。よろしくな」
導乱がにっ、と輝かしい笑顔で肩を抱く。それにまた頬を赤くしながらも結はそれをどかしてにこっ、とする。その笑顔はとても柔らかく、のんびりしている時の咲乱に似ていた。咲乱も両親のこんな処は尊敬しているのかにこにこしている。
「ところでさっちゃん。お昼はどうしたの?」
「うんにゃ。俺が作るつもりだったから食べていないよ?」
結の問いに咲乱が応え、導乱が首を横にふる。
「お前は怪我人だ。座って待ってろ。俺がつくってやるから」
そういうなりどこかへ消える導乱の背中を見つめながら、結は苦笑する。
「導ちゃんたら、はりきっちゃって」
「確かに楽しそうではあるな」
結の言葉に雅己はぽつりと答える。が、結は2人にだけ聞こえる小さな声でこう言った。
「さっちゃんが、お友達を連れて来たのは……小学校の頃以来なのよ」

(つづく)

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後書き
ども、フーレイです。
基本ほのぼので行かせていただきますが、ほんのちょっとだけ過去発覚(汗)。次はちょいとディープ(設定的な意味で)ですが、まぁ基本はギャグを目指します。暗い話ではありません。むしろ咲乱の立ち位置とか、水繰家の設定とかかなぁ。

次も雅己さんと縁さんは登場します。
ださせてくれてありがとう、お2人のPLさんっ!

因みに、タイトルには深い意味など毛頭もありません。
だって元ネタが……元ネタですから(遠い眼)
by jin-109-mineyuki | 2009-04-01 22:52 | 無限銀雨図書館