ある野良魔導士の書斎

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お題消費より先にこっちを (咲乱、実は和服派だったりする)


 沐浴を済ませた咲乱はいつものように質素な着流しを纏い、乾かした黒髪を結わないままあてがわれた部屋で寛いでいた。1人大好きな科学雑誌を読んでいると障子に人影が映る。それが誰か、彼にはわかっていた。どうぞ、というと障子が開かれる。
「咲乱様。おめしかえでございます」
「……自分でやります。外で待っていてください」
メイドの1人が白い着物を持って佇んでいた。咲乱はそれを受け取ると彼女を下がらせ、素早く着替える。白い羽織と袴は儀式の際身に纏うことが多く、普段から日本舞踊の練習などで着物を纏うことが多い咲乱は自分で着ることができた。
(儀式、何をするんだろう?)
素早く着替えながら、何気なく考えた。父親は何も言わなかったが、とにかく継承順位が定まった儀式が今宵あるのだ。
(考えても、しかたねぇか)
小さくため息をつき、顔を上げる。そして襟を正し、手早く髪をポニーテイルに結うと彼は小さく笑った。準備は終わっている。後は、きっちり儀式を受けるだけだ。
「おまたせしました。……長老のところへ行ってきます」
咲乱は部屋から出るなり、待機していたメイドにそう言って歩き始めた。

シルバーレイン プライベートテイル
『17.4』 第四閃

 うっすらと暮れていく空を見ながら、咲乱はメイドを伴って歩いていく。その途中、縁が白い着物を纏って現れた。彼女もまたメイドを伴っている。
「咲兄ちゃん、やっぱり似合ってるね」
髪を結わないまま伸ばしている縁は、頬を僅かに赤くして笑う。それにちょっとだけ照れながら咲乱もまた縁を見つめた。透き通るほどに白い肌。そして、穏やかな緑の瞳。彼女の父親はケルト民族の血を引く男性で、その影響からだろう。
「縁も、よく似合っている。綺麗だよ」
その言葉に、縁は顔を真っ赤にして俯いてしまいメイドたちはやさしく微笑む。若い時期当主と時期三守のやり取りが、愛らしく思えたのだろう。
「そろそろ時間だ。さ、お祖母さまの所へ……いや、長老の所に」
咲乱の言葉に縁は頷き、四人は歩き始めた。

 一方、導乱もまた着替えを済ませていた。赤みがかった髪を丁寧に梳き、今度は妻である結の髪を梳く。柔らかく、子供のような髪の手触りに瞳を細めつつ、彼は言葉を紡いだ。
「今さっき、先輩がきたよ。儀式じゃなかったらゆっくり酒も飲めたんだけどな」
導乱が苦笑していると、結はくすくすと笑った。
「貴方らしいわね。……それで、先輩はいまどちらに?」
「客間でお茶を飲んでいる。今晩の儀式も見ていくそうだ。他の客人ともはなしているんじゃないかな?」
そういいながら、彼はふと手を止める。何を考えたのか、僅かな間瞳を閉ざし…またおもむろに手を動かし始める。
「導乱、どうしたの?」
「ちょいと……ね」
彼の言葉に、結はくすくすと笑いながらその手に触れた。
「やっぱり、咲乱が心配なの?」
「いや。あいつならどうにかなるだろう?」
そういいながら導乱はそっと妻の手に唇を寄せた。

 そろそろ、亜夜羽がメイドを伴って合流する。そう思っていた咲乱と縁ではあったが、彼女の姿はなかなか見えなかった。
「……おかしいな。あいつだったらとっくの昔に待ってそうなのに」
「もしかしたら先に行っているんじゃないかな?」
訝しがる咲乱に、縁はにこにこと答える。確かにきっちりとした性格の亜夜羽を思い出せば先に長老である琥珀の元に行っていてもおかしくはない。そう納得しかけた咲乱であったが、縁の前にいたメイドが首を横に振る。
「先ほど志村が迎えに行きましたが、亜夜羽さまはいらっしゃいませんでした」
「それじゃあ、鍛錬か沐浴か?」
咲乱が不思議そうに首を傾げると、前からもう1人のメイドが慌てて走ってくる。それが志村さんであるのは4人とも知っていた。
「志村さん、どうしたのですか?」
咲乱の前にいたメイドが問いかける。と、志村は緊張した面持ちで口を開いた。顔は青白く、汗でびっしょりとしている。ただ事ではない。
「…あっ、あっ…亜夜羽さまが…亜夜羽さまが…零番蔵前でお倒れに…」
「何っ!?」
咲乱はいても立ってもいれず彼女を押しのけ、庭へ降りた。側に草履があったのにもかかわらず足袋のまま砂利を踏み、蔵のほうへ走っていく。そのあとを縁とメイド達は追いかけた。
「なんでまたあんな物騒なとこに行ってんだよ、亜夜羽の奴……」
咲乱はふと、首を傾げる。記憶の中では零番蔵は本当に危険な場所だった。錬金術の実験道具や魔術の道具が収められているだけでなく、危険な妖刀の類や不浄の物から受けた《穢れ》を浄化するために術を施された武具などが収められているからだ。魔力も高いだけでなく猥雑としているため、魔力の高い人間が入ると眩暈を起こすこともままある。まぁ、比較的魔力が低い咲乱は父親から『悪戯のお仕置き』として怖い武者鎧の前に縛り付けられ、蔵に閉じ込められたために中学生になった今もそこが『怖い所』という認識なのだが……。
(普段、立ち入り禁止になっている場所にお仕置きとして叩き込む親父も親父だけどさ。その前になんで亜夜羽が倒れてるんだ?)
「咲乱兄ちゃん、1人じゃ危険だよ!」
縁が息を切らせながら走ってくるが、咲乱はとまらない。蔵へ近づくたびに、疑問が、少しずつ濃くなってくる。砂利を踏む度に、何故だろう、胸騒ぎが起こり、酷くなる。
「縁、悪い。長老に言ってくれ。……今夜の儀式は中止したほうがいいってさ」
咲乱は振り向かないままそう叫び、蔵を目指して走り出した。

 程なくして、咲乱は蔵の前へとたどり着いた。全てで8つある蔵の中で一番屋敷に近いのが零番蔵だ。その前に、白い着物を纏った亜夜羽が倒れている。こうしてみると勝気でつん、とした印象の彼女もか弱い部分があるなぁ、となんとなく思った。が、そんなことを頭の隅にやり、抱きかかえる。
「おい、亜夜羽!しっかりしろよ!!」
そう言いながら頬を叩いていると、違和感を覚えた。何故だろう、冷たい空気があたりを覆っている。いや、項がぴりぴりとし、抱きかかえているのを思わず横たえた。
―同時に聞こえる、吐息の音。
「なっ!?」
体に力が入り、袖から何かが飛び出る。それが見えた咲乱はあわてて身を引いた。見えたのは銀の閃き。そして、ゆっくりと起き上がる亜夜羽の姿。
「…性質の悪い冗談だな、亜夜羽」
咲乱が苦笑して声をかける。も、亜夜羽は艶やかな笑みを口元に浮かべ、刀を向ける。その瞳に透明感は無い。曇りガラスのような赤い瞳の奥にギラギラとした何かが灯っている。
「あそぼう?さっちゃん……」
その唇が、言葉を紡ぐ。うっすらと微笑みながら刃を向ける亜夜羽は、幼い時のように咲乱を呼んで……襲い掛かった!
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by jin-109-mineyuki | 2009-03-19 15:58 | 無限銀雨図書館 | Comments(0)