そのままその場で朝を迎えた一行は一度教会に向かった。町長の冥福を祈るため、である。司祭もプネウマも酷く悲しそうだった。
「こうなりそうなことは…わかっていたはずなのに」
そう呟いたプネウマの横顔にカモミールたちの胸が痛む。祈り終えた一行が外に出ようとすると、司祭が引き止めた。
カードワースシナリオ『ヘイトマシーン』(作:a-system)より
『俺らとヒゲと殺戮兵器』:6(著:天空 仁)
「…私は言わなければならないことがあります」
「それ以上言わないで!貴方もロラントに…」
プネウマが止めるものの、司祭は首を横に振り胸元の十字架をぎゅっ、と握り締めた。
「いえ、私にはこれ以上人を欺く罪を犯すことが耐えられないのです。言わせてください」
彼はそういうと深く息を吐き、一度だけ目を閉ざして…口を開いた。
「この街はしばらく前からディック=ロラントと名乗る者に牛耳られています」
「やっぱりな…。で、ロラントは何処に?」
ハッカの問いに司祭は酷く困ったような顔をした。と、言うのも彼曰く誰もロラントの姿を見たものはいないし、何処にいるのかもわからないというのだ。それにも関わらず逆らったものは次々に死んでいく。恐らく村長も…奴に殺されたのかもしれない、という事だった。ハッカは無意識にアスカロンを軽く叩いていた。
「手がかりは…なしか」
「ただ、ロラントは鉄で作られた人形をよく使いますが、それはよくユニバーサル・フルーツの倉庫から出てくるのが…」
その言葉に、プネウマが顔を上げる。そして一行を伴って果物屋へと走っていく。
「…果物屋へいくよっ!」
「司祭さま、感謝します!」
マルパッチョはそういうとにっこり笑い、皆を追いかけた。
果物屋へ向かうと…そこには誰もいなかった。そう、あの娘さんも。
「もしかしたら、彼女もなにかされたのかもしれない…。急ぐわよ」
プネウマの言葉に全員が頷いている傍から、ハッカが何かに気づく。
「…司祭さまが言っていたのって…これのことかなぁ…?」
一同が振り返るとそこには扉があった。
「それだ!」
ジンジャーは頷き、一同はそこへと飛び込む。…と、いきなり樽があった。
「…なんか気が抜けるような」
と思わず呟くベイジル。しかしこの奥には何かあるに違いない。
「しかし、冒険者としてはその樽が気になる。もしかしたら極北茶かもしれないし、例のお酒かもしれない」
「ロラントの罠の可能性もある…」
ミントとプネウマの言葉を聴きつつもジンジャーは樽に近づいてぽんぽんと叩いている。
「うん、いい林檎の匂いがする。20年ものの林檎酒だ…飲む価値があるね」
「それじゃ、後でのみましょう」
「…時間があったらね」
マルパッチョの言葉にプネウマがとりあえず頷き、さらに奥へと進んだ。階段を下った所には…やはりというべきか、カーターを浚ったときに出てきた機械人形がやってきた。
「ビンゴッ!やっぱりそうだったか!!」
カモミールたちはすぐさま動き出し、手早くそれらを始末する。途中宝箱で奇妙な盾を入手したり、機械人形のビームをくらってみたりしたが、どうにかヒゲ…ことカーターを助けることが出来た。その途中で色々な情報が入手できた。
「つまりは、ここは資料倉庫でもあるわけね」
カーターを連れて外へいく途中、振り返りつつベイジルが呟く。プネウマははき捨てるように
「ちょっとは解ったでしょ?GFがどんなにやばいところか」
「それどころか俺たち以上のえげつない奴らってーのもな」
ジンジャーが頷き、カモミールが肩をすくめる。そして、林檎の匂いに目を細めつつ
「こんなに美味しい林檎の産地を…汚しやがって」
地下を走りぬけ、戦闘準備して果物屋を飛び出す。と、教会から爆発音がしプネウマが攻撃を食らう。
「! プネウマさんっ!?」
「こんなの、掠り傷…それよりも早く教会に」
「ちっ、こそこそしやがって…」
ハッカに支えられ、プネウマは走る。カモミールもまた腰の刀を握り、全員が教会へ走る。ここにいても仕方がない。いち早く司祭を助けないと。
「ヘイデン司祭ッ!」
乱暴にミントが戸を開ける。と、司祭は血の海に倒れていた。案の定、といったところだろうか。カーターとジンジャーが抱きかかえるとかろうじて息があった。その傍らで辺りを探っていたプネウマが声を上げる。
「…上よ。司祭をこっちに」
「ああ」
ジンジャーたちで司祭を下げ、カモミールが治癒を施す。その間にも辺りを見渡していると……見覚えのある女性が不敵な笑みを零していた。
「あれ…?果物屋の…??」
マルパッチョが首をかしげていると気づいたのだろう、彼女はにっこりした。
「あら、こんにちは。みなさん、お元気?」
「…貴女が司祭様を倒したの?」
ベイジルが鋭い目で果物屋の女性を睨みつける。空気が一気に冷たくなり、女性は口元をほころばせ、ピンポーン、とふざけた口調で言う。
「この姿で倒したわけじゃないのよ?…誤解…」
そこまで言ったとき、気の変化に全員が身構える。瞬間、声が野太い男性のものへと変わったのだ。
「誤解するんじゃねえええええっ!プネウマァアアアッ、流石のお前も気づかなかったようだなぁ!」
「いや、そこまで変わっていたらわからないと思う。正直言って」
「……そ、そう?そういわれるとちょっとうれしいかなぁ…」
素直に感想をもらすハッカに、声が女性のものに変わる「敵」はどこか嬉しそうに照れたものの、はっ、と我に帰る。同時に目の周りの皮膚がはがれ、機械が露になった!
「じゃねぇえええっ!下等生物どもがあああっ!」
「いや、調子に乗ったお前が…」
相手が機械の身体をあらわにしたというのにも驚かず、ハッカが突っ込む。
「相変わらず調子に乗りやすいわね、ディック」
プネウマの呟きをとりあえず咳払いで無視し、ディックは言葉を紡ぐ。
「まぁ、兎も角…俺が『第二委員会』のディック=ロラントだ。わかったかなぁ~?」
「女装趣味?」
「これはあくまでも世を忍ぶ仮の姿だ!」
ディックと名乗った男の顔…機械の目に、醜く避けた口を目の当たりにしても動じず、今度はカモミールが首を傾げる。
「異常な異形ね…」
「遂に人間もやめたか…。お前らしいといえば、そうかもしれないな」
鋭く、冷たいベイジルとプネウマの眼光と言葉。荘厳な教会に響くディックの不協和音めいた声。冒険者たちも、カーターも彼を睨みつけるが、ディックは楽しそうに笑う。
「ははっ、うるせぇってんだ、崩れ魔女がっ!もう昔の俺とはちがうんだよ。
そいつを解ってくれなきゃこまるなぁ、おいぃ!」
(こいつ…自分自身を機械にしやがったのか…。
確かにあいつも機械の身体を持っているけれど…そいつとは違う)
ジンジャーが目を細め、ディックの目を見た。悪魔の技術だ。その禍々しさは空気を通して肌に伝わる。いまも鳥肌が立っているのだ。
「…これはちょっと教えてやる必要があるみたいだなぁ…。
かっかっかっ、俺様の最高傑作をみせてやるぜっ!」
ドンッ!
鈍い機械音がし、目の前にピンク色の機械が現れる。昨夜戦った機械…ヘイトマシーンよりもなんだかオーラが…
「くっ、これが…もしかして…」
「あの倉庫にあった資料が正しかったら…こいつはプリティ・ヘイト・マシーン…」
マルパッチョとミントが息を呑む。
「ほほう? 察しがいいじゃねぇか。これがその実物だ、チビ二人。
こいつで沢山人間を焼いてきたなぁ?
…お前らも早速バーベキューにしてやるぜぇえええっ!」
声とともに、機械も『無差別殺戮モード』への移行をアナウンスする。
「こいつには…あいつの力や魔法の効果がないっ!…行くぜっ!!」
「「おおっ!」」
一斉に『カモミール小隊』の面々は走っていく。機械から発せられる光線に打たれながらも、只管立ち向かっていく。
(続く)
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後書きとかいて反省文と読む
今週で終わると思ったら長すぎたので斬りました。
中途半端になってしまってすみません。